Anoter Shadow
避難小屋の側に、雪に埋もれた女の子が倒れていた。
その身体は冷たく、もう生きてはいないだろうと、こころや悟は思った。
彼女の名は涼蔭穂鳥。
涼蔭穂鳥はスフィアにいる犬伏景子の一つの人格であると、こころや悟は思っていたはず。
だが、実際に涼蔭穂鳥という人物は存在したのだ。
こころや悟と同じ意識残留
ココロ編の犬伏とサトル編の犬伏は、明らかに別の人格が宿っている。
しかも人格交替のタイミングは、転移のタイミングと同時。
これは一体どういうことなのか……?
サトル編をプレイした時、疑問に思ったことだろう。
だが、涼蔭穂鳥は避難小屋のサークル内に実在していた、という事実が明らかになったことである答えにたどり着く。
犬伏と穂鳥は、悟とこころと同じように人格交換していたのだ。
これで転移と同時に人格が替わることにも説明がつくだろう。
むしろ逆に、これ以外では納得のいく説明は困難だ。
ちなみに――
ココロ編での犬伏が本物の涼蔭穂鳥、
サトル編での犬伏は犬伏景子本人……である。
このことはTIPSにも記されている。
3人目の人格
ここで思い出して欲しい。
時空間転移は3点間で行われていたことを。
その第3の地点に、双子の胎児が存在したことを。
こころや悟はαとともに人格転移を体験した。そのαの正体は胎児であった。
そして、カーリーのお腹にいた胎児は『双子』だった。
そう、もう一人の胎児。
その胎児がこころや悟と同じように、犬伏、穂鳥とともに転移をしていたのだ。
以後、その胎児をωと呼ぶことにしよう。
生きられなかったけど死にもしなかった影
穂鳥は雪に埋もれたまま死んでしまったはずである。
それにもかかわらず、5日目の転移の際にも、
犬伏の肉体には、犬伏と穂鳥の人格が宿っていたことはご存知の通り。
つまり――穂鳥は生きているのだろう。
本編にはそれを示す表現もある。
ココロ編7日目で本物の穂鳥に会った時、画面の彼女の手をよく見て欲しい。
こころの去り際にわずかに動くのだ。
穂鳥は最後まで生きていたのだ。
だが、未来の新聞には1月の時点で遺体を収容とあるので、救助隊が来た頃には死んでしまったようである……。
発狂する穂鳥
ココロ編での穂鳥は本物の涼蔭穂鳥であるため、心優しいのは彼女そのものの性格である。
声が出ないのは、飛行機墜落のショックによる失語症に陥っているからである (TIPSにも書いてある)。
基本的に内向的で心優しい彼女だが、3回ほど発狂してしまう。
1回目は鏡を見た時。
理由は言わずもがな。自分のものでない顔が写っていたら誰でも驚くだろう。
2回目は3日目。
転移直後にいきなりわめきだす。
落ち着いてから穂鳥に話を聞いたとき、彼女は――
あったかい 見えた 赤い光 部屋
寒くて 暗くて 閉じ込められてて ひとりぼっち
と、メッセージを伝えた。
こころはこれをDIDの症状だと勘違いしたが、実際には穂樽日と朱倉岳に転移していることを示している。
おそらく彼女は極寒の地に晒され意識もほとんどないため、朱倉岳にいるときの記憶が曖昧になっているのだろう。
だが、この直前の転移で、 自分の置かれている状況をある程度悟ったため、気がおかしくなってしまったのだと思われる。
3回目は4日目。
榎本殺害の直後である。
――とは言え、いきなり血まみれでナイフを持って、しかも内海にお前が殺したんだと迫られれば、発狂してしまってもおかしくないだろう。
ちなみに、ゆにを傷つけたのは彼女の意思ではなく、ナイフをデタラメに振り回していたところに、ゆにが自ら飛び込んだためである。
5日目には仲直りをしているため、彼女自らが謝ったのだろう。
|