アイツが憎い理由?
グラサンはアイツを憎んでいる。
アイツとはプレイヤーの意思に限りなく近い存在。
なぜ、プレイヤーは憎まれなくてはならないのか?
プレイヤーが彼らの手には届かない存在だからだろうか?
TIPS110によれば、グラサンがこのユウキドウ計画を行ったのは、11年前に優希堂沙也香が死んだのが原因だという。
11年前に何があったのか、これを考えることが答えを見つける近道であろう。
優希堂沙也香の死
沙也香の死は人格の死だったとして以後の話を進めていく。
まず、第3地点でのやり取りより明らかだが、グラサンはアイツ (プレイヤー)を憎んでいる。
そして、ユウキドウ計画は11年前に沙也香が死んだことが原因で立案・遂行されている。
以上のことから考えられることは一つ。
アイツ……すなわちプレイヤーは、沙也香の死に関係があるのだ。
だが、プレイヤーにとっては身に覚えのないことだろう。
でも、もし……プレイヤーの意識の一部が彼女の人格に乗り移ってしまったら……。
無意識のうちに存在するプレイヤーの『影の意思』が、彼女の人格を支配してしまったら……。
優希堂沙也香の人格は、死ぬだろう。
突然、このような話を持ってきたかというと、本編にそんな場面があるからである。
プレイヤーの『影』の意識が彼女に乗り移った場面が……。
それは、プロローグでの回想シーン。
少女 (沙也香)が唯一登場するシーンだ。
その 回想シーンの直前のシーンは、こころが阿我墨市立病院での惨殺事件の記事を読むシーンであった。
こころは、その犯人が犬伏景子という女性であること、彼女がDIDであることを知っていた。
プレイヤーも、犯人が犬伏景子という女性であること、彼女がDIDであることを知っていた。
そして、回想シーン。
自分が怖いという少女。
その少女を見たプレイヤーは、このように思ったことだろう。
自分が怖いという彼女はDID?
ならば、彼女こそがあの殺人鬼、犬伏景子なのだろう。
このシーンの彼女は、おそらく幼い頃の犬伏景子なのだ。
すでに考察に挙げたように、プレイヤーの意思が世界を変えてしまう可能性がある。
しかもこの回想シーンは、 こころや悟の意思が介入しないプレイヤーだけが見ることのできる回想シーン。
だから、回想シーンの最後に沙也香の人格は変わってしまった。
プレイヤーの無意識の『影』の意識が乗り込んでしまった。
回想シーン前半での沙也香の人格 (主人格)は、この時死んでしまったのだ。
そうして生まれたのが、新しい『影』の人格。
プレイヤーの無意識が作り出した、もう一つの人格。
その少女は、2009年1月14日に阿我墨市立病院で殺人事件を起こすだろう。
プレイヤーが、その事実を決定してしまったのだ……。
さて、ここでは半ば唐突に『影』の存在を仮定したが、これには他にも根拠となる箇所がある。
それを次節以降で説明しよう。
オレが感じた犬伏の影
まず、サトル編3日目。
過去にあの悲惨な事件を起こした上、今でも残忍な性格を持つ犬伏(穂鳥)だが、悟は彼女を放ってはおけないという……。
その理由を悟はこう述べた――
オレは穂鳥という女の子の中に、自分に近しい存在の影を感じるからだった。
これは、プレイヤーの『影』の意識のことを指すのではないだろうか?
その影は胎児ωである可能性も否定できなくはないが、プレイヤーの『影』とした方がしっくり来ると考えられる。
三位一体
2つめの根拠は、オープニングムービー。
オープニングムービーには次のような記述がある。
『全てを掌握するもの。全てであり全てでないもの。三位一体。神でも悪魔でもないもの』
『アイツは……どこだ?』
この記述はアイツ……プレイヤーに限りなく近い存在のことを指している。
ここで注目して欲しい記述は、『三位一体』。
これは、『ワタシ』と『オレ』と『影』の3つの意識が、1つのプレイヤーのものであることを示しているのではないだろうか?
これに近いことが、TIPS88(アイツ)の『重なりあった3つの海』でも表現されている。
ここで、『海』は『意識』の例えとしても用いられることもある。
このため、『3つの海』は『3つの意識』という意味で使われていると解釈できる。
犬伏たちの意識残留
3つめの根拠は、『転移の際のこころ達の意識の残留はプレイヤーの介入による』という考察から。
もし、犬伏達にプレイヤーの意思が関わらないのなら、彼女らが意識の残留を起こした理由が説明できない。
胎児ωだけが意識残留に関わっているというのも少し不自然だ。
だが、プレイヤーの『影』の意識を認めれば、この問題は解決される。
プレイヤーが関わっているから、犬伏の意識の残留が起こる。
胎児ωはαと同じ理由で意識の残留が起こる。
そして、本物の涼蔭穂鳥に関しては――
彼女は雪山での意識がほとんどなく、この時の様子を彼女はこころに以下のように伝えていた。
寒くて 暗くて 閉じ込められてて ひとりぼっち
『寒くて』と『ひとりぼっち』は理解できる。
だが、『暗くて』と『閉じ込められてて』とはどういうことなのだろうか。
この直前の転移の時には、朱倉岳は晴れていたはずなのだ。
だが、穂鳥の肉体が雪に埋もれていたから周りが見えなかった、と考えればこの問題は解決する。
そして、彼女が感じていた『暗くてひとりぼっち』という感覚は、虚無の存在であるプレイヤーと似ているところがある。
だから、彼女の意識も残留したのだろう。
『影』の存在を認めることで、犬伏達の意識残留についての説明もできたことになる。
セルフはどこ?
以上の根拠より、以後、プレイヤーの『影』の意識の存在を認めることとする。
これにより、犬伏の奇妙な言動のいくつかが説明できる。
まず、プロローグで男性患者が漏らした『影が……来たんだ……』という言葉。
単純に犬伏のことを知っていて、彼が犬伏を『影』と呼んでいたという解釈もあるだろう。
だが、彼はライプリヒの関係者だったかも知れない。
もし、プロローグの回想シーン関連がライプリヒによる実験だとしたら、彼らはその実験で表れた人格に『影』と名付けていたのかも知れないのだ。
そして、犬伏の漏らした『セルフはどこ?』。
これは『自己はどこ』という意味だが、『影』の意識にとってはプレイヤーこそが自己である。
『影』は捜していたのかもしれない。この時間軸には存在しないプレイヤー (自己)の存在を……。
彼女が持っていた片割れの裁ちハサミや、刃の片方が結局見つからなかったことも、 そのことを物語っているのではないだろうか?
最後に彼女のかごめ歌。
彼女はかごめ歌を、 プレイヤーのことを指している歌だと解釈した。
こんな解釈をしたのは、彼女自身がプレイヤーの一部だからなのであろう。
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