混在する意識



 ブラックコーヒーとミルク入りコーヒー
 きみはどう思う? コーヒーはブラックか? それともミルク入りか?

榎本は、こころの置かれた状況をミルク入りコーヒー、悟の置かれた状況をブラックコーヒーと例えて、時空間転移装置の説明を行った。
この例えは、時空間転移の説明のためだけではなく、別の意味も含んでいる。

ブラックコーヒーは純粋。
だが、ミルク入りコーヒーには不純物が混ざっている。

純粋なのは悟の意識の例え。
悟の意識は、『オレ』の意識が占有している。

不純物が混ざっているのはこころの意識の例え。
こころの意識は、『ワタシ』の意識とこころ本来の意識が混ざっているのだ。
だから、こころとしての記憶も失うことなく、プレイヤーが物語に介入できるのだ。

これは――(以下 Ever17のネタバレ。反転して読んでください)
Ever17のブリック・ヴィンケルとの例えを使うなら――
 こころ=倉成武  悟=少年
のようなもの。完全にイコールでは結べないがイメージ的には似ている。

(ここまでネタバレ)


 選択肢とTIPSのヒミツ
以上のことを示す箇所は、コーヒー以外にも存在する。
それを考察していこう。

まずは『選択肢』だ。

ココロ編の選択肢で、自分を指す時は『こころ』と出るのに対し、
サトル編で自分を指す時には、『オレ』になる。

選択肢は『オレ』か『ワタシ』の意思が反映されるもの。

『ワタシ』にとっては、冬川こころは『ワタシ』ではないのだ。
だから、選択肢に『こころ』という表現が用いられている。

そして『オレ』にとっては、優希堂悟は『オレ』そのもの。
だから、選択肢に『オレ』という表現が用いられている。

さらに、TIPSそのものにもこれを示す箇所が存在する。

『ワタシ』はどちらかといえば、世界を傍観する立場から物語を見ている。
このため、ココロ編でのTIPSは三人称で書かれている。

だが、『オレ』は、優希堂悟として物語を見ている。
このため、サトル編でのTIPSは『オレ』の視点で書かれている。(一部除く)


 オレとワタシの違い
キンパツ肉体にとっての『オレ』は、キンパツ肉体全てを支配する意識。
こころ肉体にとっての『ワタシ』は、本来のこころ意識に混ざって存在する意識。

これを逆に捉えてみよう。

『オレ』にとってのキンパツ肉体は、『オレ』そのもの。
『ワタシ』にとってのこころ肉体は、『ワタシ』の一部でしかない。

つまり、『ワタシ』の意識は、こころだけでなく『世界そのもの』にも混在しているのだ。
『ワタシ』の意思には、絶対的な存在であるプレイヤーの意思が残っているのではないだろうか。


 世界を決める存在
いきなりだが、ここで一つの仮定を用意しよう。

 絶対的な存在であるプレイヤーは、自分が矛盾に感じない範囲ならば、『世界そのもの』を変えてしまう可能性がある。

つまり、プレイヤーの意思が残っている『ワタシ』は、『世界そのもの』を決めることができるのだ。
とんでもない仮定だが、これらを示す事象は本編中に存在する。

まずはココロ編1日目の夕食。
もし、シチューが食べたいという選択肢を選べば、みんなもシチューが食べたくなり――
もし、中華丼が食べたいという選択肢を選べば、みんなも中華丼は食べたくなる――。
自分が食べたいものが、みんなに伝播してしまうのだ。
これはプレイヤーの意思、『ワタシ』の意思が、世界を決めたからである。

次に、ココロ編の4日目に、3人分の食糧をまとめたものを誰が管理するか選択するシーン。
『黄泉木が管理する』を選べば、こころはそのまま黄泉木に任せようとするが――
『こころが管理する』を選んだとしても、こころは黄泉木に任せようとするのだ。
結局はこころが管理することになるのだが、この選択肢はこころの意思を決めたというより、世界を決めたといった方が正しいのかも知れない。

そして最後は、ココロ編6日目に衛星電話が奇跡的に繋がったこと。
確証は薄いものの、この奇跡は『ワタシ』の意思が起こしたことなのかも知れない。

さて、(以下 Never7とEver17のネタバレ。反転して読んでください)
以上の現象についてだが、一見とんでもないように見えるが、Never7とEver17ともに存在する現象であることを考えれば、その存在を認めるべきだと思われる。
(ここまでネタバレ)


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