悟⇔榎本



 オレと俺
注意深くテキストを見てプレイした人は気付いただろうが、Remember11では『オレ』と『俺』が混在している。
『オレ』を使うのは、悟。
『俺』を使うのは、ユウキドウ計画失敗エンドでの榎本と、そして……プロローグの悟。

TIPS93にもあるが、オレはオレであって俺ではない。
つまり、『オレ』を使う人物と『俺』を使う人物は別者と言うことになる。

これより導き出される答えは一つ。

 『プロローグの悟』と、『本編の悟』は別者。


 悟は誰なのか?
 あなたは……悟じゃない……。
 私の知っている……優希堂悟じゃないわ……。

これは忘れたくとも忘れられないRemember11衝撃のラストシーンである。

キンパツで悟だったはずの人物が悟ではない――これは黛の勘違いでも意固地でもない。
それは、ユウキドウ計画失敗エンドで明らかにされる。

ユウキドウ計画エンドにより、以下が明らかになる。

 キンパツで優希堂悟だと思っていた人物が本物の榎本尚也。
 グラサンで榎本尚也だと思っていた人物が本物の優希堂悟。

これより、黛が『悟を悟じゃない』と言った理由も分かるだろう。
本物の悟は、グラサンの方であるからだ。

さて、以後は悟と榎本について頭が混乱しないように、以下の表現を用いることがある。

 本物の優希堂悟 = グラサン
 本物の榎本尚也 = キンパツ


 時計台に登ったのは誰?
プロローグで時計台に登ったのは誰なのだろうか?
少なくとも、一人称を『俺』としていたことから、本編の悟とは別人である。

時計台に登った人物と本物の優希堂悟(グラサン)は、どちらも『俺』の一人称を用い、『ダビデは琴を弾いていた……』の言葉を呟いている。
また、時計台に登った人物は記憶を失っておらず、自分の事を『優希堂悟』だと自覚している。

以上のことから、以下の結論が導き出せる。

 プロローグで時計台に登った人物の『意識』は、本物の優希堂悟(グラサン)である。

だが、その肉体はグラサンではない。

なぜなら、プロローグで彼が呟いた時の声は、キンパツの声そのものであるからだ。
しかも、その声が『自分のものとは思えなかった』と自覚している。

つまり――

 プロローグで時計台に登った人物の『肉体』は、本物の榎本尚哉(キンパツ)である。

そう。プロローグで時計台に登っている人物の肉体と意識は、それぞれ別の人物のものなのだ。
この時点で、キンパツとグラサンの意識は入れ替わっていたのだ。

なぜ、ふたりは入れ替わっていたのか?
それを解明することが、ユウキドウ計画の謎を解き明かす一つのカギになるだろう。


 オレの誕生
プロローグの悟は、時計台から落ちてしまう。
この時の記述を以下にまとめた。

 次の瞬間――。
 「あっ……」
 気がつくと、俺は宙を舞っていた。
 すべての束縛から解き放たれて……。
 時は止まり、吹雪はやみ、純白の世界へと呑み込まれていく。
 光の粒子が舞い踊る。
 鐘の音はなおも鳴り響いている。
 荘厳な儀式の始まりを……告げるように……。
 神々しく、しめやかに、粛々と、粛々と……。
 俺は光の中へと溶けていく。
 感覚はない。なにも見えない。
 剥ぎ取られるように意識をなくす。
 やがて訪れた深い眠り……。
 オレの存在は今……ここに……。

ここまでの考察を読んできた人なら、気付いた人も多いだろう。
注目すべきは、一人称である。
最初は『俺』であるのに対し、最後は『オレ』になっているのだ。

つまりこの時、キンパツの肉体から『本物の優希堂悟』の意識が消え、『オレ』を使う意識が宿ったのだ。


 オレは誰なんだ?
さて、『オレ』を使う人物は誰なのだろうか?
本物の榎本尚哉の一人称は『私』である以上、『オレ』ではない。
第一、本物の榎本尚哉が『オレ』だったら、自分の名前を優希堂悟などと間違えるはずがない。

ここで思い出してほしい。
『オレ』は記憶を失っており、それは記憶移植によるものだということを。

そして、そんな『オレ』に対して、内海はこう言ったのだった。

 今のあなたは90分前に初めて産声をあげた、特殊な存在なのかも知れないわ。

『オレ』は悟とも榎本とも違う、まったく別の人格と考えられる。


 悟⇔榎本の整理
最後に、悟と榎本の肉体と意識について整理しておこう。

まず、ユウキドウ計画失敗エンドのとき、すなわち、本編が始まる前は――

 優希堂悟の肉体(グラサン)には、優希堂悟の意識。
 榎本尚哉の肉体(キンパツ)には、榎本尚哉の意識。

つまり、本来の状態ということだ。

そして、プロローグでは、二人の意識は入れ替わってしまい――

 優希堂悟の肉体(グラサン)には、榎本尚哉の意識。
 榎本尚哉の肉体(キンパツ)には、優希堂悟の意識。

その後、キンパツの肉体は時計台から落ち、その意識は『オレ』が支配する。
すなわち、優希堂悟の意識が『オレ』に取って代わるので――

 優希堂悟の肉体(グラサン)には、榎本尚哉の意識。
 榎本尚哉の肉体(キンパツ)には、『オレ』の意識。

以上のようになる。

ユウキドウ計画失敗エンド、プロローグ、本編、――それぞれでキンパツとグラサンの意識の所有者が異なるのだ。
混乱しやすい事象であるので注意して欲しい。


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